「やめどき」について悩む場面―これまで行っていた治療・ケアを続けるのかやめるのか?
経口分子標的治療薬

2015.08.21

 がんに対する研究もめざましく進歩しており,たとえ進行・再発がんであっても,予後は飛躍的に延長している。特に,ある遺伝子変化によりがん細胞の生存に有利な細胞内情報伝達の活性化がもたらされ,増殖しているがん遺伝子中毒状態(oncogeneaddiction)であり,それらに対する選択的な分子標的薬のあるがんの場合は,顕著である。
 たとえば,EGFR*1)遺伝子変異陽性肺がんや,ALK*2)融合遺伝子陽性肺がん,HER2*3)陽性乳がん,慢性骨髄性白血病(ABL*4)転座)などが挙げられる。
 また,これらの分子標的薬の有害事象は,元来使用されていた殺細胞性抗がん剤と異なり,吐き気や嘔吐などの消化器毒性や全身倦怠感,脱毛などは軽微であり,quolity of life(QOL)は維持されることが特徴の1 つである。しかし,有害事象が軽微であり,特に,経口分子標的薬は在宅で内服できる簡便性から,終末期にこれらの薬剤をいつ中止するのか,難渋する症例を経験するようになった。
 本稿では,腫瘍内科医として,経口分子標的治療薬のやめどきを決める葛藤や経験に関して,エビデンスを踏まえて述べる。

この記事の続きは、下記書籍からお読みいただけます。

200080

Vol.25 Suppl(増刊号)

緩和ケア 2015年6月増刊号

緩和ケア臨床  日々の悩む場面のコントラバーシー

 昨今,緩和ケアについての教科書もマニュアルも,雑誌の特集も増えたが,臨床家の悩みは尽きない。その1つに,“やめどき”がある。「これまでの治療やケアをいつまで続けるのが正解なのか」「いつやめたほうが正解なのか」─抗がん治療のような“大きな”決断ではなくても,毎日毎日,こまやかな,しかし確かに決断が必要なことが存在する。

● 骨合併症のために定期的に投与していたビスホスホネートは,いつまで続けるべきなのだろうか?
● 消化管閉塞に対して効果があるように見えたソマトスタチンは,患者が死亡数日前に思える時にも継続するべきなのだろうか?
● ステロイドを内服していた患者が内服できなくなったら,ステロイドを注射薬に変えてでも,継続するべきなのだろうか?
● 看護ケアでは,吸引やバイタルサインのチェックは,どうなったら中止した方がいいのだろうか?
●「 この民間療法が効くはずだ! 」という信念のある患者・家族にどう対応するのか?
● 患者自身が,「家族には説明してほしくない」と言いつつ病状が悪化していく時に,どうしたらいいか?
●「 患者が希望をなくすから,嘘の説明をしてほしい」と家族に希望されたらどうしたらいいか?

 これらは,ある程度の「エビデンス」が確認されているものもあるが,まったくないような事柄もある。それでも,なるべく各執筆者の考えや,臨床経験から,“具体的な対応策集”となるよう記述してもらった。本増刊号が,これらの疑問に日々悩む臨床家の一助となれば幸いである。

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