下稲葉 康之(栄光会 理事長,栄光病院 名誉ホスピス長)
私は栄光病院の「ホスピス」抜きに,自分のこれまでの人生を語ることはできない。もしホスピスとの関わりがなかったら,と想像することさえ難しい。それほどに貴重である。
それは,患者さん1人1人が,まさに「生ける教科書,人生の先輩」として,私に先例を示してくれたからである。あるときは震えおののきつつ魂の苦悩を垣間見させ,また,あるときは荒い息づかいのなかから,満面に笑みをたたえて「先生,ありがとう!」と別れの挨拶を残す。そのような素朴で真実な姿を目の当たりにして,本当に何にも代えがたい貴重な財産をいただいてきた。