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社会資源・医療以外の相談ごと

社会資源・医療以外の相談ごと

医療の進歩とともに小児がんの診断・治療は的確になり,医師の病状説明の口調にも明るさが感じられる。しかし,そうは言ってもわが子が小児がんと診断されたときの親の衝撃は計り知れない。おそらく診断直後の主治医の説明は,頭が真っ白になって何もわからない親がほとんどと思う。

親が体験すること―医療者との間で起こる現象に着目して

小児がんの7 割が治癒する時代となった今も,子どもの生命を脅かす疾患の代表として思い浮かべる人は多い。それが小児期のみならず,思春期や若年成人であってもわが子が突然“小児がん”と診断されたときに親が受ける衝撃は計り知れず,その時点から子どもはもとより家族に対しても心理社会的支援の必要性がいわれている。治癒に至っても成長発達期に強力な治療を受けたことに伴う晩期合併症をはじめとし,育つ過程で子どもが遭遇するかもしれないさまざまな困難を支える親への長期的な援助や配慮も求められる。

終末期に移行しつつあるとき

近年,医療の進歩に伴い,多くの小児がんの子どもの命が救われるようになった。しかし,その反面,いまだに治癒が難しく,命を救うことのできない状況もある。「治すことができない」「命の時間に限りがある」,すなわち終末期に移行しつつあるとき,子どもや家族は,どのように感じ,どのような反応をされるだろうか。また,医療者はどのような姿勢,そして,ケアを求められるだろうか。
ここでは,先行研究の結果や筆者たちの経験を紹介しながら,終末期であっても,かけがえのない1 人の大切な子ども,そして家族であることを支えることについて考えたいと思う。

きょうだいのこと

子どもが「小児がん」と診断されたら,患者本人だけではなく,親やきょうだい,家族の生活は一変する。入院している子どものきょうだいは,入院している子どもの病状を心配し,大変そうな親のことを気にしつつ,孤独感やさみしさ,制約された生活を強いられる。時に病気の子どもが羨ましく思うこともあるが,頑張っていい子にしている。

闘病をとおして―親として今思うこと

長女が7 歳・小学校1 年生のときに発病してから14 年が経ちます。この間,多くの決断や覚悟をしながらの選択をして,常に病気を意識する生活をしてきました。入院中のことを思い起こして今の気持ちを書こうと思います。

治療を受ける子どもたち
2.ケアの側面「子どもが主体の緩和ケア」

子どもががんの治療を受けなければならないとき,子どもにとってその体験はどのように感じられるものだろうか。予期しない突然の入院で一緒に過ごしている家族と初めて別の場所で生活をすることになったり,これまで一緒に遊んだり,学習したりしていた友人と会えなくなったりするなどの環境の変化が起こりうる。そのような中,病気に関連した苦痛を伴う症状や,検査や処置による痛みや制限などの苦痛,また開始された治療に関連した症状の出現などさまざまな苦痛を子どもは経験する。

小児がんと闘って

はじめに異変を感じたのは中学2年生の12月でした。1 日に数時間体温が38 度くらいに上がり,その後下がるという不明熱を繰り返し,血液検査の結果CRP 値(C-reactive protein:炎症の指標値)が高かったため検査入院しました。当初膠原病を疑われ,熱を抑えるためにステロイド剤を飲んでいましたが,徐々に薬効が落ちていきました。診断を確定させるために,さまざまな検査をあちこちの病院で行いました。

困ってませんか? 患者さんの心の動き 否認・怒り・退行への対応 初発時に診断を否認した急性骨髄性白血病の男性患者のケース

 2 カ月前より微熱が続き,症状が改善しないため近医を受診。採血の結果にて白血球と血小板の低下,および末梢血中に芽球を認めたため血液悪性腫瘍が疑われ,がん専門病院に紹介され,1 人で来院した。
 初診時に急性白血病が疑われること,また即日入院して精査・加療が必要であることを繰り返し説明したが,本人が「私は白血病なんかじゃない。仕事も休めないので家に帰ります」と言い張り,入院の同意を得られなかった。対応に苦慮したため,主治医が緩和ケアチームにコンサルトした。

らしんばん
不思議な瞬間

 ストーマケアを専門とする看護師となって,25 年以上が経過した。この25 年の間に多くの人々に出会い,それぞれのストーマケアやセルフケアを共に模索してきた。そしていつの頃からか,私は人々との関係の過程に不思議な瞬間があることを知るようになった。その瞬間を言葉で表現することは大変難しいけれど,言うなら「私がその人のからだの中に入る瞬間」である。その瞬間が訪れるとそれ以後,私はその人の目で世の中を見,その人の耳で情報を聞き,その人の手で物を触るようになる。その人の身体の弾力や厚みを感じるようになる。愛しいというのか,親しいというのか,うれしいというのか,そういう感情が湧いてくる。そして,私のストーマケアはカルテや書類から飛び出し,自由にいきいきと息をし始める。どんな難題にでも,その人とともに穏やかに向き合う気持ちになるのだ。

海外事情
英国リバプール大学の緩和ケア卒前教育─緩和ケア実習の概要

 2014 年2 月3 日から7 日まで,リバプール大学において緩和ケアに関する卒前教育を視察する機会を得た。視察にあたっては京都大学の恒藤暁教授にJohn Ellershaw 教授をご紹介いただき,同教授が主宰するThe Marie Curie Palliative Care Institute Liverpool(以下,MCPCIL:マリーキュリー緩和ケア研究所リバプール)のSharon Phillips 看護師に,視察プログラムを調整していただいた。リバプール大学医学部4年生を対象とした4 週間の卒前教育のうち,第1週の月曜日から金曜日まで,ほぼ学生に密着する形での視察をさせていただいた。臨床実習と講義が混然一体となった教育プログラムであった。

 本稿では,このプログラムを「緩和ケア実習」と表記させていただく。大学附属病院で緩和ケアの卒前・卒後教育を担当している筆者にとっては,大いに刺激を受けた視察であった。

 本号では緩和ケア実習の概要を,次号では具体的な実習内容をご紹介する予定である。

わたしのちょっといい話
息子の在宅介護を通してよみがえった母の力

 A さんは,40 歳代男性で1 人暮らし。あまり多くを語る方ではありませんでした。自分のことを,“仕事人間のワイン好き”と冗談交じりに紹介していました。

 まだ残暑が厳しい頃,残念ながらA さんの病状は終末期に移行し,がんは脳を含め全身に転移している状態でした。そのため,病棟チームとA さんで今後の過ごし方について話をしました。A さんは,8 年前に妹を突然亡くし,それ以来,母親が妹の話を一切しなくなったこと,そして今息子として親より先に逝くことが避けられないことがつらいと,話してくださいました。

がんによるお金の相談,増えてます。
障害年金とは?ーキホン編

 私は,障害年金請求を支援する専門家として仕事をさせていただいております,社会保険労務士です。障害年金を申請するには,たくさんの書類を作成し,提出する必要があります。原則,書類で判断される障害年金請求は,障害の状態をいかに正確に書類に反映するかが重要であり,そのたくさんの書類の中で特に重要とされているものが,診断書と病歴・就労状況等申立書です。

 私は,障害年金の診断書作成依頼のため,医師と話をする機会が多いのですが,その時,医師からしばしば発せられる言葉が,「がんで障害年金はもらえないでしょ」というものです。そのほか,表1 のような誤った認識の発言がしばしば見受けられます。

いのちの歌
床ずれ

母の介護が始まって,二年が過ぎました。毎日が新しい発見,体験です。

実践レポート
鳥取市立病院「地域ケア病棟」の取り組みについて

 急性期病院においても,高齢化社会に伴い高齢者医療への対応が不可欠となった。鳥取市立病院(以下,当院)は,2010 年9 月に「地域支援・緩和病床」を運用し,多職種専門チーム介入が始動し,2012 年4 月に地域ケアセンター(総合診療科,歯科)を開設した。

新薬の使い方とわたしの使用感
イーフェン®バッカル錠の使い方と感触─リーズナブルに使いこなすために─

 イーフェンバッカル錠(フェンタニルクエン酸塩)(以下,斜体文字は商品名)は,わが国初のフェンタニルのレスキュー製剤であり,また従来のSAO(short acting opioids)と呼ばれるレスキュー製剤に比べ,突出痛に対する鎮痛作用が速やかに発現する,わが国初のROO(rapid onset opioids)製剤でもある。

新薬の使い方とわたしの使用感
イーフェン®バッカル錠の使い方と感触─新しいコンセプト─

バッカル部位とは,上顎臼歯の歯茎と頬粘膜の間である。本剤に含まれる発泡成分と唾液が混和し,炭酸ガスが発生する。クエン酸により唾液が弱酸性となり溶解する。その後,唾液内のpH が上昇し,口腔粘膜からの透過性が促進され吸収される。50 %が口腔粘膜から吸収され,残りは嚥下されて,30 %が消化管から吸収されるので,バイオアベイラビリティは65 %となる。すべて内服すると,バイオアベイラビリティが30 %になるので効果が低くなるため,バッカル投与が可能な患者にのみ使用する。バッカル錠という内服によらない投与方法として,画期的な手段である。

新薬の使い方とわたしの使用感
アブストラル®舌下錠の上手な使い方

アブストラルの発現時間は,モルヒネやオキシコドンの速放製剤より早く,持続時間は短いことが報告されており,より速い効果が期待される,予測できない突出痛に有効とされている。フェンタニル製剤の特徴と口腔粘膜吸収剤の特徴を生かし,腎機能障害・肝機能障害を有する症例,便秘やイレウス症状のある症例,経口摂取困難や嚥下困難症例などに有用である。

新薬の使い方とわたしの使用感
アブストラル®舌下錠の特徴と使い方

 内服困難な患者やオピオイドに伴う消化器症状が問題となる場合,フェンタニル製剤が選択されてきたが,レスキューとして使用できる薬剤は,おもにモルヒネ,オキシコドンの速効性製剤に限られていた。
 
 アブストラル舌下錠(以下,アブストラル)(以下,斜体文字は商品名)は,わが国で開発されたフェンタニルクエン酸塩の初めての舌下錠である。速やかに吸収されて鎮痛効果を示し,経口摂取困難,嚥下困難な患者でも服用しやすい製剤で,安定した体内動態を示す薬剤として開発された。

困ってませんか? 患者さんの心の動き 否認・怒り・退行への対応
医療者の違和感から考える防衛機制─がん患者の家族と遺族のケース─

 防衛機制は,患者だけにみられるものではない。家族は「第2 の患者」であり,心理的な重圧も大きい。さらに,死別は人生最大のストレスをもたらす。よって,家族や遺族がそのストレスから自身の心を守るため防衛機制が働いたとしても不思議ではない。
 
 本稿では,緩和ケアチームで関わった「家族」の防衛機制と,遺族外来を受診した「遺族」の防衛機制の事例を紹介する。