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体験者の語りを聴く〈最終回〉
経験を重ねながら いつもその時の自分で対応する

体験者の語りを聴く〈最終回〉
経験を重ねながら いつもその時の自分で対応する

 木村さんのお宅を訪ねたのは,紫陽花が雨に濡れる梅雨の朝だった。その日は,幼稚園に通うお子さんを送りだしたあと,数時間をインタビューのために空けてくれたのだ。筆者は,お子さんの帰宅時間が気になりながら,急いでカメラの準備を整えた。雨の日でも窓からの光が十分に入る明るい部屋で,インタビューが始まった。

 度重なる再発を経験している木村さんの語りは力強く,説得力があるものだった。それは単なる強さではなく,ありのままの弱さを包含したしなやかさのように感じられ,自然と木村さんの語りに引き込まれていった。

いのちの歌
試行錯誤

マンション生活から木造住宅に移り,冬の寒さを一層厳しく感じて,インフルエンザに感染しました。試練の年になりそうです。

おさえておきたい!
気管切開後の気管カニューレの管理

 頭頸部進行期がんの患者は,たいがい病変部が気道に関わることは,容易に想像がつきます。腫瘍の増大による上気道閉塞,反回神経麻痺などにより十分な換気が困難になった場合,気道の確保のために行われるのが気管切開術です。気管切開術は,文字通り気管に孔を開ける手技です。

 図1のように作成された孔にはL 字型にカーブし,直接下気道に交通する気管カニューレが挿入されます。本稿では,気管カニューレの種類とそれぞれの機能の違い,また気管カニューレのトラブルとケアについて触れたいと思います。

画像で理解する患者さんのつらさ〈6〉
私の顔色,やる気,元気 なおりますか

看護師(司会):新患カンファを始めます。

管理ケア科研修医:Aさん,60歳男性,精密機械設計技師の方です。昨年11月に頸部リンパ節腫脹が生じ,単身赴任先の病院で下咽頭がんと診断され,化学放射線治療を受けました。本年4月には部分寛解となり退院しました。しかし,6月には上気道閉塞症状が増悪し,気管切開術を受けています。先週7月10日,自宅に近い当院へ転院しました。

看護師(司会):看護師(A さんの受けもち),さん,転院時のAさんの様子は?

看護師(Aさんの受け持ち):2人の息子さんが付き添っていました。経鼻胃管(NG チューブ)と気管カニューレが装着され,帽子をかぶりメガネをかけていましたが,顔面,首の腫れが顕著でした。最初に「なおるつもりでこの病院に来ました。よろしく」と書かれた名刺を渡されました。

看護師(司会):そうでしたね。では問題点を検討します。

緩和ケア科研修医:第1 は,下咽頭がんの増大,両側頸部リンパ節腫大による上気道閉塞/呼吸困難です。

特別収録
緩和ケアとがん治療の協働に向けて―これからの時代へのメッセージ①

 近年,わが国の緩和ケアは,症状マネジメントの進歩,がん医療における基本的な緩和ケアの普及,ホスピス・緩和ケア病棟,病院緩和ケアチームなどの専門的な緩和ケアサービスの増加,さらに地域での在宅緩和ケアのニーズの増大など,さまざまな面で発展してきている。特に,2007年4月に「がん対策基本法」が施行され,緩和ケアが「がん対策推進基本計画」にがん対策の重要な課題として取り上げられるようになり,わが国の緩和ケアに大きな変化がもたらされた。これらの変化の下で,ホスピス緩和ケアを担ってきた医師(以下,緩和ケア医)と,がん治療を担ってきた医師(以下,がん治療医)は,さまざまな場面で協働の機会が増えてきている。

 この度,ホスピス緩和ケアに長年携わってきた柏木哲夫氏は『死にざまこそ人生』(2011,朝日新書)を,また,がん治療の中でもがん化学療法に長年携わってきた佐々木常雄氏は『がんを生きる』(2009,講談社現代新書)を出版された。この2 冊を読み比べてみると,緩和ケア医のもつ考え方と信念,がん治療医の考え方と信念に,共通する部分と相異する部分とがあることが分かる。両者には,わが国のがん医療と緩和ケアに関わる,ある意味で「思想的な課題」が示されているように思う。

 そこで,第1 回は柏木氏,第2回は佐々木氏にそれぞれ志真泰夫氏がお話伺った。がん医療と緩和ケアの思想的な接点を探り,協働に向けて考える機会としたい。

“同時改定”と“基本計画見直し”で何が変わったか ―現場の手応えと課題
臨床現場では今 在宅医療連携拠点と地域の連携について

 在宅医療連携拠点としての立場から,今改定で特筆すべきは,機能強化型(連携型)在支診の創設である。この制度創設によって,地域における診診連携が促進されれば,24時間の訪問を保障する体制や,在宅患者受け入れ余力の強化につながることが期待される。ただし,具体的にどのように診診連携システムを構築すればよいのかについて,いまだ暗中模索の状態に止まっている地域も多いと考えられる。今改定を受けて,意欲的な診診連携・病診連携システムを構築した先進地域の事例を早期に集約し,全国に周知することが望まれる。

“同時改定”と“基本計画見直し”で何が変わったか ―現場の手応えと課題
臨床現場では今 小児在宅医療・小児緩和ケアの認知度の変化と今後の課題

 今回の改定で,初めて「小児在宅医療」という言葉が示された。わが国の医療の枠組みをつくる保険診療の中で「小児在宅医療」という概念が提示されたことは,重要な意味をもっている。以下に改定の要点を述べる。

“同時改定”と“基本計画見直し”で何が変わったか ―現場の手応えと課題
臨床現場では今 在宅緩和ケアの推進と訪問看護ステーションの役割

 今回の同時改定は,今まで評価されなかった「連携」部分での改正や「退院促進」に関する数多くの項目が強化された。特に,病院・施設から在宅への移行がスムーズに行えるための方策に重きが置かれている。そのため,訪問看護ステーションが患者自身のため,安心して在宅移行が進むよう積極的に関わる良い機会を与えられたと考える。また,それぞれの改定により,「在宅医療の推進」と「地域包括ケアの整備」に向けての医療・介護の連携などが求められる内容となっており,在宅緩和ケアを推進するための改定としては,評価できる。

東日本大震災 つながり・たより〈5〉
失われることのない物語と紡がれる物語

 2011年12月18日。“お茶っこ”に初参加のその日,音楽療法士の私のバッグには,軽やかな音色の楽器がたくさん入っていました。北上駅では,復元納棺師の笹原留似子さんと秘書の菊池秀樹さん,緩和ケアの先生方が,「来たね」と温かく迎えてくださり,いざ出発!私たちを乗せた車は大槌町を目指しました。

EAPC(ヨーロッパ緩和ケア学会)疼痛ガイドラインを読む〈5〉
1.代替全身投与経路,2.突出痛に対するオピオイド

〈1〉代替全身投与経路
ガイドラインの日本語要約

1.エビデンス
 経静脈・皮下のオピオイド投与は,嚥下障害,嘔気・嘔吐,終末期で衰弱のため内服できない患者に必要なことがある。1 つの系統的レビューで,がん疼痛に対して異なった投与経路を比較した18の研究が調べられた。それに加え,3つの系統的レビューが,この臨床課題に関連があると判断された。

画像で理解する患者さんのつらさ〈5〉
急にお腹が痛くなって,吐き続けています

緩和ケアチーム看護師:胃がん術後の患者さんが,再入院になりました。今からラウンドしようと思うのですが,P 先生も一緒にお願いできますか?

緩和ケア科医師:もちろん。でも,出かける前に情報を整理してからにしよう。R先生,準備はできている?

緩和ケア科研修医:はい。患者さんは,Aさん,70歳男性です。胃がんstageⅢbの診断で,4年前に当院消化器病センターで,胃全摘術を受けました。1 年後,吻合(ふんごう)部再発を認め,化学療法と放射線療法を受け,CR(完全寛解)となり,経過観察中でした。手術前後のメンタルケアや胃全摘後の食事指導などで,緩和ケアチームが関わっています。

使用経験から新薬メサドンを知ろう
メサドンの特徴と注意点―症例から学ぶ

 メサドンは,臨床的にほかのオピオイド作動薬にはない特徴のため,緩和ケアにはきわめて有用である。その一方,使用の開始また維持には,薬理学的特性のために,重篤な副作用を経験することがある。本稿では,症例検討により,ほかのオピオイドからメサドンへの変更時によくみられる有害作用を示し,さらに必要最低限の薬理学的特徴を紹介する。

使用経験から新薬メサドンを知ろう
がん疼痛におけるメサドンの使用―ちょっとややこしいけど重宝する薬

 メサドンが“ちょっとややこしい薬”と認識される理由として,詳細は総論に譲るが,①薬物動態が独特なこと〔a)他薬剤との相互作用:メサドンがおもにCYP450 3A4 によって代謝されることによる,b)半減期が長いこと,c)腸管排泄であること〕,②オピオイド換算比に特徴があること,③ QT 延長の可能性の3 つが挙げられるだろう。

使用経験から新薬メサドンを知ろう
がん疼痛におけるメサドンの使用―概要と症例

 メサドンの薬物動態に対する理解が深まるにつれ,欧米でもがん疼痛に対するメサドンの使用頻度が増してきた。米国では,約72万人が慢性疼痛の治療目的にメサドンを使用している。メサドンは,高力価で持続期間が長く,活性代謝物を生じないという特徴がある。一方,半減期が長く幅広い個人差があることから,慎重な副作用のモニタリングが必要である。

使用経験から新薬メサドンを知ろう
がん疼痛薬としてのメサドン―米国での使用経験と国内治験の結果から

 筆者にとって,メサドンは思い入れの強い薬である。筆者が,米国で内科と疼痛緩和ケアの臨床研修を受けたニューヨーク市のBeth Israel Medical Center は,全米でも有数のオピオイド依存症の治療施設であり,メサドンを用いた依存治療の専門施設を併設していた。そうした環境の中,筆者はメサドンという特殊な薬に大変興味をもち,メサドンとQT 延長に関する臨床研究にも従事していたことがある。

 帰国後は,なんとしてもメサドンをわが国へ導入したいと願っていた矢先に,本剤の国内治験に関わるご縁をいただいた。そして,この度メサドンが,わが国のがん疼痛治療中の患者に使用可能となったことを心より嬉しく思う。

 本稿では,米国での臨床経験や国内の治験結果も含めて,メサドンに関する総説的な内容を述べる。