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症例報告
リハビリテーションを行い一時退院が可能であった進行期大腸がん患者の1例

症例報告
リハビリテーションを行い一時退院が可能であった進行期大腸がん患者の1例

末期がん患者に対する理学療法をはじめとするリハビリテーション(以下,リハビリ)が積極的に行われるようになっており,その重要性が高
まってきている。その中で,作業療法はリンパドレナージ,身体的機能訓練,日常生活動作(以下,ADL)や余暇活動の支援などの,患者本人に対する直接的な介入を行うとともに,情報提供や介護方法の指導など,家族に対する関わり,福祉機器導入による環境調整など,多面的な介入を行うことで,身体的苦痛の軽減を図り,患者の心身機能,コントロール感,社会的関係・役割,ADL 能力,自己価値観の向上に貢献すると報告されている。
 今回,術後廃用症候群が高度であり,臥床傾向であったが,リハビリによりADL が向上し,一時退院が可能となった進行期大腸がん患者の1 例を経験したので報告する。

調査報告
泌尿器科領域のがん疼痛に対するオピオイド長期使用成績

 がん疼痛は,がん患者が経験する苦痛の中で,がんの診断時に20 〜50 %の患者に存在し,患者によってはがん疼痛マネジメントが長期にわたる場合がある。泌尿器科領域のがん患者は,比較的長期間にわたり生存する症例が多く認められるが,泌尿器科領域でがん疼痛を有する患者の経過を検討した報告は少ない。
 今回,泌尿器科がんの疼痛治療状況を,オピオイドについて検討することにした。中長期間の経過を検討するため,オピオイドを180 日以上投与した過去10 年間の症例を集計し,その患者背景,オピオイドの投与期間や鎮痛補助薬の投与の有無などの各因子を,後ろ向きに検討した。さらに,腎機能障害に着目し,その特徴と緩和ケア療法についても考察した。

海外事情〔最終回〕
英国の“ケアラー”支援の取り組み─Caring with Confidence の実践

家族の介護や看病などで“ケアラー”(carer)の立場にある人が孤立し,身体的・心理社会的負担を感じている場合が少なくない。わが国でも実態調査が行われ,すでにNPO によるケアラー支援が始まるなど,社会的関心は高まっている。
 訳者(門林)は,欧米のホスピス・緩和ケアについて,訪問や調査をまじえて,比較社会学的視点から報告を書く機会を与えられてきたが,今回は,英国で開発されたケアラー支援の先駆的な取り組み「Caring with Confidence」(自信を身につけたケア)のプログラムを,地域に広げるための中心的な役割を担ってこられたLinda Cairns さんの寄稿を紹介したい。

コミュニケーション広場
がんプロフェッショナル養成基盤推進プラン事業 帝京サマースクールを開催して

 2013 年の春,念願だった小学生へのがん教育について学内・院内の賛同を得るために,病院中を走り回った1 日がありました。このプロジェクトには,小学生へのがん教育は教育者として大きな役割があるという共通の意識と,私たちが誇りに思っている医療・職場・姿勢を伝えられることに嬉しさがあり,スタッフは忙しい診療の合間を見ながら,力を惜しまず取り組んでくれました。そんな2013 年のスタートから,今年(2014 年7 月26 日)は第2 回目を迎えました。

CURRENT ISSUE
「マインドフルネス」とセルフケア教育への取り組み─オーストラリア・Monash 大学の教育プログラム

 オーストラリアのMonash 大学では,「マインドフルネス」を利用した医学教育プログラムが,医学生・医療者・さらには市民を対象に行われている。近年,マインドフルネスは,自己覚知(self ─ awareness:自分自身のあり方への気づき)を促す1 つの考え方として認識されている。特に,医療の場面においては,厳しい労働環境におけるセルフケアやストレスマネジメントにつながる内省的な側面と,医療者として関係性に基づく援助を考える際に基礎となる概念として,注目されている。

らしんばん〔最終回〕
源流に遡る,そして河を下る

・仏教伝播の歴史が示すもの

締切をとうに過ぎた原稿が書けずに悩んでいた。分担執筆だから自分だけのことではなくて,たくさんの人に迷惑をかけてしまう。しかし,書けない。その時,佐々木閑さんの本,『真理のことば ブッダ』(NHK 出版)を偶然,本屋で見つけた。何気なく手にとった。この本の「仏教の伝播」図を見て,思わず引き込まれて一気に読んだ。そして,「ホスピス伝播の歴史」と「仏教の歴史」は同じではないが,共通するものがあると感じた。その「仏教の伝播」と題された図について簡単に触れておこう。

エシックスの知恵袋
その患者さんの意向,真に受けちゃってもいいのかな?

<事例>

患者  Aさん,60 歳代後半,女性

原疾患  乳がん。多発肝転移,多発肺転移。がん性胸腹水貯留のため加療目的となり,入院となった。

家族  独居。夫とは死別。家族はいない。身の回りのことを手伝ってくれるような親しい友人もいない。

入院後経過  薬物療法や腹水・胸水穿刺で,苦痛症状はおおむねコントロールされていたが,3日前,新たに出現したがん性リンパ管症により,呼吸不全が出現。今後の病状進行を懸念した主治医が,Aさん本人へ急変時の対応を確認してみたところ,Aさんは「心臓マッサージや挿管はやってみたい」という意向だった。
主治医は,これまでの言動から,Aさんの理解力に疑問を感じたため,もう一度よく説明し,意向を確かめようと考えていた。しかし昨日,Aさんは痙攣発作を起こし,意識レベルが低下,意思疎通が困難となった(痙攣の原因は脳転移と判明)。そこで本日,急変時の対応に関するAさんの意向にどう対応したらよいか検討するために,臨床倫理コンサルタントを交えて,多職種カンファレンスを開催することになった。

生活をみる! 放射線療法の看護ケア
頭頸部がんの放射線療法─栄養サポート・口腔ケア・皮膚ケアが要

<症例>

A氏,60 歳代,男性。
喉の痛みと嚥下時痛が出現し受診。中咽頭がんcT4aN0M0,stage Ⅳaと診断された。①導入化学療法+手術,あるいは,②導入化学療法+化学放射線療法を提示され,②を選択した。
TPE療法(DTX+CDDP+Cmab)*1)3クール終了し,放射線治療科を受診した。

がんによるお金の相談,増えてます。〔最終回〕
障害年金 診断書の作成 ~記載事例と注意したいポイント~

皆さん,こんにちは。障害年金の専門家,社会保険労務士の石田です。
 医師の方々が作成する診断書は,年金・労働災害・健康保険・身体障害各法・民間医療保険などとさまざまです。その中でも,障害年金のような複雑な診断書から,単に休養日数を証明する比較的簡単なものまで多岐にわたっており,診断書作成にお困りの医師の方々が多いと思います。
 そこで,最終回では,医師の方々にとって診断書の中でも特に労力と時間を要し,がん患者の年金申請の際に最も多く使われる,障害年金の診断書「様式第120 号の7」の記載事項に関して注意したいポイントをお話ししたいと思います。

2014 年度 診療報酬改定と“緩和ケア”への影響
2014 年度 診療報酬改定の概要と緩和ケアに関する診療報酬一覧

 2014 年度の診療報酬改定率は,全体で0.1 %増となっているが,消費税増税への対応分を除くと,実質1.26 %減となる。今回の改定は,社会保障・税一体改革を実現するため,2012 年改定に引き続き,医療機関の機能分化・強化,連携を進めていくものであり,その内容は2013 年8 月にまとめられた「社会保障制度改革国民会議報告書」に沿った内容となっている。

緩和ケアセンターと緩和ケアチームの変化ー新指針が現場にもたらしたもの
緩和ケアチームによる外来診療と地域連携

がん対策基本法および同法の規定に基づく「がん対策推進基本計画」によって,がん医療の均てん化を推進し,国民が全国どこでも質の高い医療を受けることができるように,がん診療連携拠点病院の整備が進められ,2013 年4 月1 日の時点で,397 施設が拠点病院に指定されている。
 がん対策推進基本計画において,「患者とその家族が納得して治療を受けられる環境とチーム医療の体制整備に向けた検討を進めていく等」とされていることから,がん診療連携拠点病院の指定要件を見直し,新たながん診療提供体制が整備されることになった。
 本稿では,2014 年1 月に厚生労働省から示された新たな「がん診療連携拠点病院等の整備に関する指針」において,緩和ケアチームでの外来と病病連携・病診連携の協力体制について,がん診療連携拠点病院の緩和ケアチームが,地域の中でどのように活動をしていくべきかを考えてみる。

緩和ケアセンターと緩和ケアチームの変化ー新指針が現場にもたらしたもの
緊急緩和ケア病床の運営

従来,兵庫県立がんセンター(以下,当院)は400 床のがん専門病院で,緩和ケア病棟をもたず,周辺20 km 以内にも緩和ケア病棟がない状況にあった。緩和ケア病棟の必要性が論じられていたが,近年,在宅療養が推進される中,在宅療養に必要な後方支援の重要性を鑑み,かかる緊急入院を受け入れる機能をもった「緩和ケア病床」を2012 年4 月に開設した。その経緯と運営状況,今後の課題について紹介する。

緩和ケアセンターと緩和ケアチームの変化ー新指針が現場にもたらしたもの
緩和ケアのスクリーニング─エビデンスと実践─

 2014 年1 月に示された「がん診療連携拠点病院等の整備に関する指針」(以下,新指針)に,いきなり投げ込まれた感のある緩和ケアスクリーニングについて,約10 年間の運用経験を踏まえて,学術的・臨床的ポイントをまとめる。

緩和ケアセンターと緩和ケアチームの変化ー新指針が現場にもたらしたもの
がん看護カウンセリングの実践

カウンセリングとは,言語的および非言語的コミュニケーションを通して相手の行動の変容を試みる人間関係である1)。がん患者は,がんと診断され,治療法の選択やがんを抱えながら生活していく術すべを獲得するために,さまざまな苦悩や不安を抱えている。がん看護カウンセリングは,このようながんに関連した苦痛や悩みを抱えた患者に,面談を行い,その苦痛や苦悩を軽減することを目的に行われる。
 2014 年1 月に改訂された「がん診療連携拠点病院等の整備に関する指針」(以下,新指針)では,がん診療連携拠点病院(以下,拠点病院)の要件として,がん看護カウンセリングの体制を整えることが求められている。
 これに先立ち,愛知県がんセンター中央病院(以下,当院)では,2012 年1 月よりがん看護外来を開設し,「がん看護カウンセリング」(以下,がん看護外来)を実施している。そこで,当院でどのようにがん看護外来を開設したか,その取り組みと運用の実際を紹介する。

TOPICS
私のターミナルケアと看取りへの疑問とその解決の方向をさぐる─「ビハーラケアと日本的ケアの可能性」での提言─

 病者は,大部分が治るとしても,何%かは死への道を歩む。そして,さらに若い人のがん死は,自然死・老衰死とは違い,まだ社会的役割をもちながら人生をあきらめるという深刻な問題である。
 私は,こうした死をも含めて,原理的には1 つのケア(理念)で間に合うはずなのに,現在のケアの基本に欠陥があって,特別仕立てのホスピスやビハーラケアが必要となっているのではないか。日本(人)的ケアを改めて組み直すことができれば,その欠陥をカバーすることができるのではないかと考えていた。
 そして“日本的”基層文化を土台として“仏教的”なケアを期待し,日本人の歴史・文化・風土から生まれてくるケアの原理が自然で有効性があるのでは,とも考えてきた。
 そこで,私の結論的な方向を提案する前に,何人かの先人の考えを,おそらく私の独断的な形で紹介したい。

らしんばん
患者の気持ちを可視化する大切さ─ツールを使い,患者の生活の質を向上させる

 いくつもできた口内炎。そこを,激しい嘔吐で胃液が逆流し,しみる痛さと吐く苦しさに呻き声が出てしまう。下痢にもなり,トイレにこもる長い時間。点滴につながれた片手の自由はなく,明日に希望を見出せず,泣き明かす夜。
 今から20 年も前,筆者が精巣腫瘍になり,抗がん剤治療をしていた際の思い出である。制吐剤の製品改良が進んだとしても,がんや緩和ケアという言葉が与えるイメージは,現在でも患者の心情に大きな影響がある。

がんによるお金の相談,増えてます。
障害年金診断書の作成~請求と認定要領編~

 第3 回では,障害年金の請求と障害の認定要領についてお話ししたいと思います。
 
障害年金の請求から支給決定までの流れを,医療従事者の方にも理解していただき,医師が作成する診断書の重要性を,再認識していただければと思います。
 
 第1 回で,悪性新生物(がんを含む)による障害認定基準を紹介させていただきました(本誌24巻3 号p.228)が,この認定基準は抽象的な基準を示すにとどまっています。
 
 そのため,障害ごとに具体的な認定要領が設けられていますので,今回は,がん患者の障害認定要領「悪性新生物による障害」についてご説明したいと思います。

家族ケアのツボ
説明を受けても納得しない家族にどう声をかけたらいいの…

<事例>

 B さん(57 歳,女性,乳がん末期)は,痛みや倦怠感により身の置きどころのない状態。付き添いの夫(60 歳)は,「頑張れ! 頑張れ!」と声をかけている。医師が,苦痛緩和のためのモルヒネ使用を促すと,夫は「命が縮まる。妻はそこまで苦しがっていない」と返答し,医師が繰り返し説明しても納得しない。看護師は,夫は薬の必要性を理解できていないと感じ,その都度「分からないことはありませんか?」と夫に尋ねるが,夫は「大丈夫です」と拒否的な反応であり,どう関わっていいのか分からなくなってしまった。