本稿においては,7 対1 入院基本料の算定要件の厳格化と病床機能報告制度を中心に解説するとともに,これらに関連する今後の緩和ケア病棟の位置づけについて若干の私見を述べる。ただし,7 対1 入院基本料の算定要件の厳格化については経過措置があり,病床機能報告制度についての詳細は現在検討中であり,厚生労働省が公表している資料等からの推測による記述を含むことを了解
いただきたい。
筆者は,がん専門病院の看護管理者であり,がん看護専門看護師である。今回の診療報酬改定が病院運営上厳しい改定であったことに合わせ,日常のがん医療の現場で,すでに高齢患者が厳しい状態の中で通院を継続し,入院してもすぐに退院しなければならない現状に危機感を抱いている。
このような状況の中で,看護の専門性が「がん患者指導管理料」として評価されたことは,特記すべきことである。看護師の立場から診療報酬を解説し,現状と今後の展望について述べる。
終末期の患者は適切な薬物療法を行っても緩和できない苦痛や苦悩を体験している。そうした状況を改善するために,補完代替療法の活用に期待が寄せられている。本稿では,終末期の苦痛・苦悩の緩和に効果が期待され,日常のケアに簡便に取り入れることができるマッサージとアロマセラピー(以下,アロマ)について紹介する。
倦怠感は,がん患者が体験しやすい症状の1 つであり,治療期から終末期にかけて,その出現頻度は多様である。倦怠感を緩和するためには,薬物療法だけでは不十分であり,看護師には非薬物療法の併用を考えることが求められる。
本稿では, 米国がん看護学会( Oncology Nursing Society)が作成したONS PEP(Oncology Nursing Society Putting Evidence into Practice)の中から,看護実践において推奨される介入と有効性が認められる可能性のある介入の「教育・情報提供」「睡眠障害に対する認知行動療法」「補完療法(リラクゼーション,マッサージ,ヒーリングタッチ)」「運動療法」を紹介する。
さらに,PEP の内容に,システマティックレビュー(特定のテーマの研究を網羅的に収集し,科学的根拠のある複数の研究結果を総括的に検討・要約したもの)を活用して,上記の非薬物療法の内容や日常のケアへの活用を説明する。
呼吸困難とは,呼吸に伴う主観的な不快感を指し,疼痛や倦怠感などの身体症状を増強させるだけでなく,パニックや死の恐怖などの心理的側面とも結びつき,患者のQOL に大きく影響を及ぼす症状である。有症率は,がん患者の50 %程度であり,病状の進行や,死が近づく過程においてその頻度はさらに高くなる1)。呼吸困難に対する治療法は,原因病態が明らかな場合にはその治療が第一である。同時に,症状緩和においてはオピオイドをはじめとする薬物療法と非薬物療法の複合が重要で,どちらか単独の介入では不十分であるといわれている。
治療/ケアの特徴─ここが新しい
・Point
1.ラメルテオン(ロゼレム®)は,高齢者の救急入院患者のせん妄を予防する。
2.最新のがん患者を対象としたうつ病・抑うつ症状に対する抗うつ薬のメタ解析において,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)や四環系抗うつ薬は,プラセボと比較して有効であることが示唆された。
〈1〉メラトニン作動薬であるラメルテオンには,せん妄予防効果がある可能性が示唆された
2014 年に発表された論文では,わが国のICU,救急病棟に入院となった被験者67 人(ICU24人,救急病棟43人)を対象に,ラメルテオンとプラセボが無作為に割り付けられた。
治療/ケアの特徴―ここが新しい!
・Point
1.倦怠感を主要評価項目とした最初のランダム化比較試験で,ステロイドが倦怠感を緩和することが,2013 年に初めて示された。
2.倦怠感に対するステロイドの効果は,長くても投与1 週間後から明らかになり,2 週間は持続することが示されたが,長期効果はまだ検証されていない。
倦怠感は,多くのがん患者が訴える症状の1 つである。ステロイドを投与すると,「なんとな〜く元気になる」ことがあり,倦怠感に対してよく用いられてきた。しかし,実はつい最近まで,倦怠感を主要評価項目としてステロイドの効果をみた質の高い研究はなかった。
オキシコドンの注射剤としては,従来,わが国では複方オキシコドン注射剤(パビナール注)(以下,斜体文字は商品名)が用いられてきたが,添加されている塩酸ヒドロコタルニンの薬理作用が不明瞭であり,皮下投与しか適応がないこともあって,がん疼痛の治療薬としてはあまり普及し
てこなかった。
単剤のオキシコドン注射剤(オキファスト注;以下,オキファスト)は,2012 年5 月に国内で発売されて以来,次第に普及し始めてはいるが,有効性や安全性に関するまとまった報告は少なく,臨床的な適応や投与方法も確立されてはいない。
家族の中でも,特に患者の配偶者や恋人(以下,パートナー)は,自分のパートナーのがん発病に衝撃を受け,自らもなんらかの支援を必要とする立場でありながら,同時に患者である本人の中心的支援者としての役割を担うという特殊な状況に置かれる。パートナーは,患者本人から相談を受けたり,一緒に治療方法を考えるなどの役割を果たしており,患者本人と同様に心身不調が
増大しやすく,患者本人よりも抑うつ感を感じたり,情緒的well ─ being が低くなることも報告されている。
このように,がん患者だけでなく,その配偶者も多大な心身不調を抱えることとなるが,わが国においてがん患者の配偶者が抱える心身不調の具体的内容や,心身不調を感じた時の相談行動に関する研究は少ないのが現状である。
「おはよう。おきてるかなあー。いいアワビがあるんじゃけんど食べんかなぁ」
ご近所の魚屋さんです。今日はゴミ出しもなく、ゆっくりできると思っていた矢先のことでした。
近年,「がんサロン」に代表されるがん経験者へのグループ支援が,各地で開かれるようになってきている。2012 年に,がん対策推進基本計画に,がん患者サロンなどのピア・サポートの充実が盛り込まれた。このように,グループ支援やピア・サポートは,がん経験者,家族に対する心理社会的サポートとして重要な位置を占めるようになっている。
われわれは,2012 年にサポートグループ「がんカフェ」を,地元の東京都清瀬市で始めた。
あの日,あの初夏の午後は,よく晴れていた。M さんの部屋の窓は開け放たれ,初夏の風が流れ込んでいた。時折レースのカーテンが舞う。その日は,M さんと私2 人きりであった。ほかの家族は,葬儀に出かけていたのだ。
「こうして死んでいくのと,あんなに突然死んでいくのとどっちがいいのかねぇ」
M さんは急につぶやいた。誰に問いかけるという雰囲気ではなかったが,そこには私しかいなかった。私は少しとまどったものの,「どっちだろうね」とひとこと答えた。2 人ともしばらく黙って,レースのカーテンが初夏の光の中で踊るのを眺めていた。吹き込む風が心地良く感じられた。私たちはしばらくの間,そうして過ごした。
皆さん,こんにちは,障害年金の専門家,社会保険労務士の石田です。第1 回では,障害年金の受給3 要件(初診日,納付要件,障害認定日)がすべてそろっていないと障害等級に該当している
状態であっても受給できないということを中心にお話しさせていただきました。
第2 回では,①障害年金の必要性と年金額,②障害の程度が変わった時/複数の障害をもった時の請求制度,③障害年金と傷病手当金との関係,以上3 点についてお話ししたいと思います。
わが国では,人口の高齢化にともない,高齢者の死亡者数が増加しているため,地域で高齢者ケアに携わる者にとって,高齢者の終末期や死に直面する機会が今後ますます増加していくものと考えられる1)。高齢者ケアを提供する者自身の死生観は,高齢者の終末期ケアの質に大きな影響をもつ2)。つまり,死生観を育んでいない者は,死から逃避するであろうし,過剰なまでに精神的ショックを受けることもありうる。高齢者ケア関係者には,死について深く洞察し,死生観を育む死の教育の必要性が高いと考える。
そこで,“死”のように漠然としたテーマを深く掘り下げるのに適した質的研究手法であるKJ法3)を用いた死の教育ワークショップを開催し,死生観に与える影響について検討したので報告する。
終末期がん患者の在宅緩和ケアの現場では,時に状態の急変,さらに急変に引き続く「急変死亡」に遭遇することがある。
たとえば,次のような場合である。
事 例:60 歳代,男性。大腸がん,肝転移。心窩部~右季肋部に5 横指以上に腫大した肝臓を触知する。病院主治医からは化学療法は終了し,「緩和ケアの段階」と言われている。
最近はほとんどベッド上で過ごし,ようやくトイレ歩行が可能である。食事はほとんど取れなくなってきている。患者・家族とも自宅で最期を迎えたいという希望があり,1 週間前から訪問診療を開始している。本日,10 分ほど前から強い上腹部痛があり,冷や汗をかいてうめいていると家族から緊急の電話があった。
さて,この患者さんを在宅で看取りますか,病院に搬送しますか。あなたはどうしますか。
本稿では,対象を終末期がん患者に絞り,その急変への対応についてまとめてみたい。
がん患者では,終末期においては約80 %にせん妄が生じる。しかし,死の数日前のせん妄は,死に至る自然経過の中で生じる意識障害の過程であり,従来の医学診断の枠で扱えない問題という意見もある。しかし,せん妄は家族にとって時にはつらい症状であり,医療者にとっても対応に苦慮することの多い症状である。
家族は,せん妄とその対応にはアンビバレンツな感情を抱きやすい。混乱した言動があると,家族は患者が精神的におかしくなってしまったと思う反面,その言動に意味づけを感じたり,会話ができるということで安心する。また,せん妄に対する薬物療法や病状の進行に伴って患者が眠っている時間が長くなると,穏やかな最期を過ごせて良かったと安心する反面,話ができなくなり,もう目が覚めないと不安になる。
本稿では,仮想事例を提示し,症例に沿って患者への対応に関するスタッフ内のカンファレンス,患者・家族とのコミュニケーションの実際を示す。さらに,終末期のせん妄患者に対応するために参考となる課題について解説する。
がん患者において,呼吸困難の発生する頻度は46~59 %と報告されており,肺がん患者に限るとさらに頻度は増して,75~87 %になると報告されている1)。また,がんに限らず呼吸困難は,終末期の患者には高頻度にみられる症状の1 つである。
本稿では,病棟スタッフと緩和ケアチームが,事例を振り返りながら,呼吸困難のマネジメントのポイントについて確認していく。
看護師になったばかりの頃は,患者の死は切実だった。患者という第三者の死というよりも,よく知っている身近な人の死として捉えていた。虚無感が伴い,つい前日まで会話をしていたA さんがいないと思うと涙があふれた。しかし,いつまでも“一つの死”で泣いていられるほど,病院の日常は緩やかに流れてはいない。A さんが亡くなった直後であっても,ほかの患者のナースコールに何事もなかったかのように対応し,笑顔で会話をし続ける。ナースステーションは「ステルベンがあった」「受け持ちがデク処置に入っている」など,無機質な隠語で満ちていく。「誰かが死後処置をするんだ…」とぼんやりと思った。亡くなったA さんが退院すると,あっという間に部屋の清掃が行われ,A さんが生きていた風景は消えた。
看護学生の頃は,悲しい時は悲しく,うれしい時はうれしく,自分の感情を素直に表現することが許されていた。けれども,病院の日常は,悲しいのに笑顔を見せなければならなかったり,人の死を無機質に表現したり,看護師が死を悼むことを許さないメタファーであふれていた。私は,「心が擦り切れるというのは,こういう体験なのだ」と感じた。先輩たちは「忙しくてゆっくり患者の話を聞く時間がない」と口々に言っていた。けれども実際には,ゆとりのある日にも,忙しい日と同じような看護が行われた。「本当は,忙しさの問題ではないのかもしれない」と思った。
あちこちで鮎釣りが解禁となった六月、九十二歳を迎えた母の生活は、早朝から、お喋りばかりで一日に同じことを何十回も言い続ける日と、布団の中でゴロゴロし、話しかけても笑っているだけで「ボー」としている日と二パターンに分かれているようです。
三友堂病院(以下,当院)は,地域唯一の緩和ケア病棟(以下,PCU)を有する急性期病院であり,2009 年,当地域に外来・入院・在宅のいずれにおいても質の高い緩和ケアが提供される医療体制を構築するために,PCU を中心とする地域緩和ケアサポートセンターを開設した。当院のPCU 看護師は患者の意思の尊重,患者の自律性の回復と維持を目標に,緩和ケア専門職としての職務を遂行している。その内容は,入院患者の症状緩和,在宅療養移行準備のみならず,在宅療養・在宅での看取りの支援,訪問看護ステーションや介護施設との連携,患者・家族教育,医療・介護・福祉関係者や地域住民への啓発など1)であり,職務上,さまざまなストレスに晒される。
そこで,当院PCU 看護師のストレスについて,その内容と程度,また,経験年数別の違いを一般病棟看護師と比較し,検討した。