ホーム > 雑誌記事

高齢者ケアのスペシャリストから学ぶ緩和ケア
ショートレビュー 高齢者の終末期における意思決定について

高齢者ケアのスペシャリストから学ぶ緩和ケア
ショートレビュー 高齢者の終末期における意思決定について

 事前指示・リビングウィルの重要性が指摘されるようになった。事前指示は,「現在,意思判断能力が正常な人が,将来,判断能力を失った場合に備えて,医療やケアに関する指示を事前に与えておくこと」であり,終末期の延命治療の内容に関する指示であるリビングウィルと,治療方針の決定に関する代理人の指名から構成される。

 事前指示の具体的な書式については,日本尊厳死協会が「世界のリビングウィル」としてまとめている。わが国でも,全国老人保健施設協会や筆者が開発したものを含め,散見される。

高齢者ケアのスペシャリストから学ぶ緩和ケア
高齢者ケアの“こんな時” “動く”を支える―動けないことに対するリハビリテーション

 動かないことに起因する二次的な障害が,心身の諸機能に及ぶことは広く知られており,高齢者ケアにおいては,多くの対象者にその症状を認める。本稿では,動かないことによる身体面への影響とその対応について,リハビリテーションの視点から述べる。

高齢者ケアのスペシャリストから学ぶ緩和ケア
高齢者ケアの“こんな時” “排泄”を支える―高齢者の特徴を踏まえた便秘のケアポイント

 人は,生きていくために食べて出すのが基本であり,排泄は,食べることと同様,重要である。

 排便の障害といえば,まず下痢と便秘が挙げられるが,下痢では排便頻度が高く,感染が原因となる場合も多いため,医療者も問題意識をもちやすく,素速くケアされることが多い。しかし便秘は,高齢になれば仕方がないと捉えられ,「3日なければ浣腸」といった画一的なケアを実施している場合も多いのではないだろうか。

 ここでは,便秘について取り上げ,快便を目指すケアの実際について考えたい。

高齢者ケアのスペシャリストから学ぶ緩和ケア
高齢者ケアの“こんな時” “食べる”を支える―チームアプローチが有効であった事例から

 人は,“食べる”ことで栄養を摂り,生命を維持している。しかし,“食べる”ことで味を感じ,美味しいと思えば,幸せな気持ちになる。また,“食べる”ことは交流の機会でもある。一家団欒で食卓を囲むことや,食事会などで食事をしながら会話を楽しむこともある。食事という手段を使って,多くの人とのつながりをもつことができる。このように“食べる”には,生命を維持するとともに,楽しい一面も兼ね備えている。

 本稿では,“食べる”ということが,単に安全な栄養摂取だけではなく,その人らしさを実現できるものであるとお伝えできれば幸いである。

高齢者ケアのスペシャリストから学ぶ緩和ケア
介護者である家族を支援する―家族の本当のつらさとは

 介護を担う家族介護者の負担感に関する研究調査や,報道などは,数多く目にするが,家族の抱える多面的な負担(身体的・精神的・経済的など)を抜本的に軽減するものは,既存の制度や支援体制の枠組みでは,なかなか見当たらないのが現状である。当法人(介護者サポートネットワークセンター・アラジン)では,2001年から「家族介護者を地域で支援するための仕組みづくり」に取り組んできた。

 本稿では,当法人での日頃の実践を通じて知るところの,認知症の人を介護する家族が直面するつらさや葛藤,悩みなどについて述べたうえで,家族介護者への支援のインフォーマルな社会資源や,その視点を紹介する。

高齢者ケアのスペシャリストから学ぶ緩和ケア
高齢者に対する薬物療法の留意点と服薬管理

 高齢者では,薬物の代謝・排泄能低下や多剤服用を背景として薬物有害作用が出現しやすく,薬物療法には特別な注意が必要である。緩和ケア・医療を受ける患者の多くは高齢者であり,本稿では,薬物有害作用を避けるための工夫と服薬管理について解説する。

 関連する事項として,日本老年医学会が2012年に発表した立場表明および筆者らの厚労省研究班が今年発表した「高齢者に対する適切な医療提供の指針」についても紹介する。

高齢者ケアのスペシャリストから学ぶ緩和ケア
老衰と緩和ケア―その人らしい生き終え方とは

事例―①概要 

 清水さん(仮名)は,パーキンソン病や認知症,脊柱管狭窄症を患う91歳男性である。以前から,自宅で妻に日常生活動作(ADL)を手伝ってもらいながら生活していたが,2年前(2011年)に妻が入院したことをきっかけに,筆者が訪問診療を行っている介護付き有料老人ホームに転居してきた。痩せていて腰も曲がっているため,その小さな身体を歩行器に預けるようにして移動していた。

 一流銀行の頭取まで務めたそうだが,いつも腰が低く,気さくな振る舞いからは,その片鱗もみえなかった。野鳥の会で活動していたほど鳥が好きで,暇をみつけては自室で双眼鏡を覗きながら,鳥のスケッチを描いていた。ホームのレクリエーションにはほとんど参加し,特に,好きな音楽レクリエーションでは,常に最前列で身体を揺らしながら,大きな声で歌っている姿が恒例だった。

高齢者ケアのスペシャリストから学ぶ緩和ケア
高齢者および認知症患者に対するケアの工夫―日常生活援助の意味

 筆者の勤務する松江市立病院(以下,当院)は,高齢化率が全国2 位の島根県にある470床の地域中核病院である。当院では,2006年に県内初の緩和ケア病棟を開設し,地域診療連携拠点病院として,緩和ケアチームの組織横断的な活動にも力を入れている。高齢者の多い地域柄,入院患者の約4割が後期高齢者であり,緩和ケアチームや緩和ケア病棟が関わる高齢者の割合も高い。このような場に勤める筆者にとって,高齢者への緩和ケアは大きな課題であり,緩和ケア認定看護師らと連携・協力し,現場の看護の質向上に努めている。

 本稿では,当院の高齢者および認知症高齢者の事例から,具体的なケアの工夫を紹介し,そこから高齢者の日常生活援助の意味について考察してみたい。

高齢者ケアのスペシャリストから学ぶ緩和ケア
高齢者の見方を変えてみよう!―見方の幅が広がるとケアも変わる

 筆者は現在,入院患者の平均年齢 約88歳,約8割が認知症を有し,9 割が死亡退院する“終の住処”の役割を担った療養病床に勤務している。日々,ケアする中で,認知症の人の行動や言動をどう受け止めたらよいのか。老化による心身の機能低下なのか,それとも病によるものなのか。言語で意思を伝えることが困難な全介助の高齢者の意思はどこにあるのか,何を望んでいるのかなど,高齢者ケアの奥深さを実感している。

 われわれケアする者にとって,老いは未知の世界である。だからこそ,高齢者を知ろうとする真摯な態度が大切になってくると考えている。

らしんばん
がんサバイバーという臨床活動

 還暦を越えて,「自分も臨床に戻ろう,往診訪問を中心にした地域ケアをやろう」と,大学を早期退職した矢先であった。すい臓がんステージⅣb と診断された。まったく晴天の霹靂というしかない。「臨床」に戻ろうとしたら,その中心である「患者」になったわけである。

 遅れに遅れていたわが国の精神保健の状況を,改善するための半生であった。ところが,自分ががん患者となってみると,がん患者をめぐる医療保健福祉の状況は,精神保健に勝るとも劣らないほどの歪みが存在していることに直面した。

サイコオンコロジストはこうしている③
緩和ケアにおけるアカシジアのアセスメントと治療

1. アカシジアを疑うさまざまな訴え
 
 「足がむずむずしてじっとしていられない」「座っていられない」などと患者が訴えた場合,緩和ケアに関わっている医療従事者のほとんどは,アカシジア(静座不能症)だと判断するだろう。しかし,「眠れない」「気持ちが落ち着かない」「いてもたってもいられなくて,こんな状態ならいっそ早く死にたい」などと患者が訴えた場合には,それぞれ不
眠,不安,希死念慮などと考えないだろうか。これらはいずれも,アカシジアの患者の訴えとして私が経験したことのあるものである。

臨床で役立つ サイコオンコロジーの最新エビデンス
不眠についての最近の考え方と緩和ケアへの活用

◇ 不眠とは適切な時間帯に床で過ごす時間が確保されているにもかかわらず,夜間睡眠の質的低下があり,これによって日中にQOL低下がみられる状態である。

◇ 患者が望む分だけ眠らせることが治療のゴールではなく,不眠によるQOL低下を改善するのが治療のゴールである。

◇ 不眠への適切な対応のためには,薬物療法だけではなく睡眠の科学に基づいた生活指導や認知行動療法が重要である。

サイコオンコロジストはこうしている②
怒りへの対応のポイント

 怒りは,不公平感や失望感を相手に伝えるコミュニケーションである。コミュニケーションは,本来双方向的な情報交換だが,怒りは強く表現されて一方向的な情報伝達になることもある。それは,相手に自分の経験を理解してもらいたいという強い気持ちの表れともいえる。怒りを向けられた医療者側のコミュニケーションの目標は,怒っている者の経験を共感的に理解することである。

臨床で役立つ サイコオンコロジーの最新エビデンス
認知症のマネジメントーBPSDに対する薬物療法と非薬物療法

 超高齢化社会を迎えている今,認知症患者も増加の一途をたどっている。このような背景の中,一般診療における認知症患者の占める割合も増加しており,緩和ケアに携わる医療従事者にも認知症に関する知識は必要不可欠となっている。

 本章では,最近の系統的レビューや関連学会のガイドラインを参考に,認知症に伴うBPSD(behavioral and psychological symptoms of dementia:行動心理学的症状)の介入について,最近のエビデンスを踏まえて概説する。

サイコオンコロジストはこうしている①
希死念慮を有する患者のアセスメントとケア

 がん患者,特に進行がん患者が,医療の現場で「死にたい」「死んでしまいたい」と話すことは決してまれではない。実際,先行研究においても緩和ケア病棟入院中の終末期がん患者の約20%に希死念慮が認められることが報告されている1)。

 筆者もがん医療に従事する精神腫瘍医として,希死念慮を有する多くのがん患者に接してきた。本稿では,その際に気をつけているいくつかの留意点やコツを紹介したい。

サイコオンコロジー最前線①
がん患者の自殺に関する最新データ

1991年~2006年に,スウェーデンの一般住民600万人以上を対象として行われたコホート研究では,がん診断からの期間と,自殺の関係を詳細に報告している1)。その結果,図1に示したように,がん診断直後の1 週間以内の時期に,自殺の危険率が最も高く,危険率は時期とともに減少していくが,約1 年経ったあとも有意に高いことが報告されている。

臨床で役立つ サイコオンコロジーの最新エビデンス
抑うつに対する薬物療法と協働ケアモデル

 がん患者において,抑うつは頻度が高く,かつさまざまな悪影響をもたらすため,適切な対応を要する。

 本稿では,まずがん患者における抑うつに対する最新のエビデンスに基づいた薬物療法の実際を紹介する。また,近年,協働ケアモデルががん患者の抑うつマネジメントに有用であるとの報告が相次いでいる。協働ケアの概念を紹介するとともに,わが国におけるこのようなアプローチの可能性について検討する。

らしんばん
“老い”を感じる時はいつですか?

 私は,1993年7月(わが国が冷夏の年)から3カ月間,知人から紹介された顔も知らない女性を頼り,1 人ネパールへ渡航した。私の思いは「人の役に立ちたい!」,ただそんな気持ちだった。しかし,自然に逆らわず生活しているネパールの人たちの姿をみて,自分が恥ずかしくなった。「私も自然に自分らしく,この土地の人たちと楽しもう!」と思ったのである。そう思った瞬間から,みえるものが変わり「何でもあり!」と感じられた。この3カ月間は“神様からのプレゼント”と今でも思っている。そして,この体験が,老人看護を自らの専門分野にするきっかけを与えてくれたのである。

原著
終末期がん患者が「明るさを失わずに過ごす」ための医療者の支援のあり方 緩和ケア病棟の医師・看護師を対象としたエキスパート・インタビュー調査

 Miyashitaらは,望ましい死の概念化に引き続き,がん診療連携拠点病院56 施設の一般病棟,緩和ケア病棟100 施設,在宅ケア施設14施設で死亡したがん患者の遺族それぞれ2,560名,5,311名,292名を対象に,終末期がん患者の望ましい
死の達成を評価する調査を行った。「楽しみになることがあった」と回答した遺族は,がん診療連携拠点病院の一般病棟で31%,緩和ケア病棟で51%,在宅では66%であった。患者個々の楽しみや明るさは必要であるにも関わらず,実現できていないのが現状である。

 これらの結果から,医療者は,終末期がん患者が「楽しみになることがある」「明るさを失わずに過ごす」ために支援していく必要があると考えたが,これらの支援を体系的に明らかにした研究は,国内外ともに,質的・量的調査を含めてなかった。そのため,本研究では,緩和ケア病棟で,緩和ケアに熟練した専門家である医師22名と,看護師23名が提供する具体的な支援方法をインタビュー調査し,質的分析を行った。その結果,終末期がん患者が「楽しみになることがある」ための支援方法は,患者の日常生活を支援し,患者個々の楽しみを大切にするケアが明らかとなった。

 本研究では,次の段階として「明るさを失わずに過ごす」ための支援を体系的に明らかにすることで,終末期がん患者の望ましい死の達成により貢献できると考える。