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家族ケアのツボ
泊まりがけの介護で疲れた家族に休んでほしいけど…

家族ケアのツボ
泊まりがけの介護で疲れた家族に休んでほしいけど…

「無理をして介護を続ける家族にどう接したらいいのでしょうか」

泊まりがけの介護で疲れた表情の家族。看護師が「大丈夫ですか。休んだ方が
いいですよ」と声をかけても,家族は「大丈夫です」と返答し,行動の変化はな
い。明らかに大丈夫じゃなさそうなのに…。

海外事情
英国リバプール大学の緩和ケア 卒前教育2─緩和ケア実習を視察して

2014 年2 月3 日から7 日まで,リバプール大学の緩和ケアに関する卒前教育を視察する機会を得た。

医学部4 年生を対象とした4 週間の緩和ケア実習のうち,最初の1 週間を見学した。緩和ケア実習は,外科・内科などの主要科目と同等の扱いで行われていることを,前号で紹介した。今号では,具体的な実習内容を紹介する。

死が近づいた時の症状マネジメントー質の高いエンドオブライフ・ケアを実現するために
気道分泌・死前喘鳴のマネジメント

60 歳代,肝細胞がんの男性患者,徐々に肝不全が進行し,3 日前から終日ほぼ傾眠状態で,経口摂取不能となった。尿量は50 mL/日と減少し,撓骨動脈圧も弱くなっている。採血では,総ビリルビン14 mg/dL,アンモニア150 μg/dL,尿素窒素70 mg/dL,クレアチニン1.5 mg/dL,と肝性脳症や腎不全を示唆している。肺転移,心不全を認めず,発熱や炎症性喀痰,聴診での局所的な雑音など,肺炎を示唆する所見はない。
当日朝より,呼吸に合わせて,喉元でゴロゴロ音がするようになった。病室(一般病棟の個室)の入り口からも聞こえるほど,大きな音である。表情筋はやや弛緩して,表情の変化は乏しく,体動もほとんどない。全身浮腫や顕著な腹水貯留を認める。主治医は,予後数日以内と想定している。
主治医より,推定予後が1 週間以内と説明を受けた妻が,2 日前から付き添っている。落ち着いて見ていられず,「窒息してしまうんじゃないか」「痰に対して治療をしてほしい」と医療者に訴えている。一方,患者の長男は,「いつ息が止まる
のかと思って看ているので,音がするのはまだ息をしている証拠と思う」と話している。
薬剤は,内服はウルソ,ラクツロースゼリー,リスペリドンが処方されているが,嚥下困難となっており,末梢血管より補液1 L と分枝鎖アミノ酸製剤400 mL を行っている。

死が近づいた時の症状マネジメントー質の高いエンドオブライフ・ケアを実現するために
疼痛のマネジメント

T さん:50 歳代,男性,胃がん,リンパ節・肝臓・腹膜播種・骨転移。
死亡8 カ月前に進行胃がんと診断され,全身化学療法を行ってきた。がん悪液質の進行に伴い,食事摂取量が低下,さらにリンパ節転移の下大静脈浸潤による両下腿浮腫も合併した。

2 カ月前に主治医より,腫瘍増大とPS(performancestatus)低下のため,標準治療終了と告げられた。臨床試験も含めて,化学療法レジメン変更の提案がなされたが,T さんは妻のM さんと相談した末,化学療法中止を選択した。そして,
外来にて緩和医療科併診となった。
その後,T さんは外来への通院が困難となったため,訪問診療・訪問看護開始となり,自宅でM さんの介護を受けながら生活することとなっ
た。

1 カ月前から,腹痛と腰痛,右大腿部の痺れの増強があり,体動で疼痛が増強し,食事や排泄をベッドから離れて行うことが難しくなってきた。外来で行ったCT 検査にて,腹膜播種病変の増大と第2 腰椎への骨転移,さらに同レベルの神経根浸潤を認めた。在宅では,塩酸モルヒネ120 mgとアセトアミノフェン2,400 mg,プレガバリン150 mg で,症状軽減が図られていた。

2 週間前より経口摂取できなくなり,痛みと浮腫のためにベッドから起き上がれなくなったために緊急入院となった。入院後,血液検査にて肝転移進行による肝不全と,脱水による腎不全も判明。予後予測として担当医は,週単位で1~2 週の可能性が高いと判断した。

死が近づいた時の症状マネジメントー質の高いエンドオブライフ・ケアを実現するために
死が近づいた時の症状マネジメントの重要性

エンドオブライフ・ケアは,国際的にみると,カナダで公表された「高齢者のためのエンドオブライフ・ケアに関するガイド」1)(以下,ガイドとする)が,その定義と内容を最初に体系的に提示したものである。ガイドで示す定義全文は,以下の通りである。

分子標的治療薬の概要と緩和ケアでの活用

医学は間違いなく日進月歩であり、がんの薬物療法も、身体に対する緩和医療も大きく進歩した。この10年ほど前までは、最後まで闘いたい患者においては、「抗がん剤の副作用で、かえってつらい状況で亡くなる」ことも考慮し、「休眠療法」などと称して、ごく少ない量を投与する考え方もあったが、エビデンスがないとして消え去った。抗がん剤治療は、効果がなくなり、病状が悪化した場合は、免疫を抑制し、白血球を減らす等の副作用からも中止せざるを得ず、終末期においてギアチェンジを強要された。

ところが、分子標的治療薬は白血球を減らすことが少なく、免疫を抑制しない、内服薬がたくさんある等の特徴がある。最近、まだ観察研究ではあるが、分子標的治療薬においては、効果がなくなったと判断した場合でも、中止するよりも続けて治療した方が生存期間は長いという研究結果が次々と報告され、近くエビデンスとして確立される可能性がある。 つまり患者さんが最期まで「闘いたい」「希望を持っていたい」とされた場合、分子標的治療薬はたとえ緩和病棟に入っていても、その治療が叶えられる可能性が出てきた。

分子標的治療薬のさらなる発達で、近い将来、緩和医療においても重要な役割となる可能性がある。

治療を受ける子どもたち
1.身体的苦痛の緩和(特に痛みについて)

医学の進歩によって小児がんの子どもの70~80%に治癒が得られる時代になったが,それは造血幹細胞移植をはじめとした強力な(すなわち副作用や合併症も多い)治療によってもたらされた成果である。小児がんの子どもたちは,治療を終えて社会復帰を果たすまでに,あるいは治癒を得ることが叶わずに亡くなるまでに,長期間に及ぶ闘病生活を送り,その間にさまざまな身体的苦痛を経験するのである。

子どもの反応
3.小児がん治療を受ける学童期・思春期の子どもたち

学童期から思春期にかけての子どもは,家庭から,学校,社会へと大きく生活環境を広げ,身体や運動機能だけでなく,認知面や心理社会面においても目覚ましく成長する。病院環境において考えると,生活面では徐々に自立し,泣いたり怒ったりしてニーズを伝えてくることも少ないため,“手がかからない”反面,そっけない態度や心を閉ざした様子のときもあり,ニーズの気づきにくさ,対応の難しさを感じることも多い時期ではないだろうか。発達段階の特徴を踏まえながら,病院環境におけるこの時期に特有のニーズ,必要な支援のあり方を考えたい。

子どもの反応
2.小児がん治療を受ける幼児期の子どもたち

小児がん治療は,子どもたち自身にもご家族にも,心身共に大きな負担をもたらす。しかし,幼児期の子どもたちも,乗り越える力を引き出し支える援助があれば,無力感の中でただ心身の苦痛に耐えるのではなく,発達段階に応じた形で治療の意味や過程を理解し,安心感と主体性,癒しと楽しみ,見通しと達成感,自己表現と成長の機会を得て乗り越えていく可能性をもっていることを,日々子どもたちに教えられている。

子どもの反応
1.小児がんの子どもにみられる心理的反応

発達過程にある子どもにとって,小児がんに罹患し,長期的な治療と入院を経験するというのは,環境と生活の大きな変化となり,心理面行動面にさまざまな影響をもたらす。子どもの心理的反応は,その発達段階によって,表現の仕方や影響要因も異なるが,ここでは,発症間もない入院初期,治療中,治療終了後に分けて,子どもの一般的な心理的反応や心理適応について述べる。

小児がんの子どもに伝えていくこと―子どもと家族と語り合い続けることの大切さ

小児がんと診断された子どもは,その病気や治療の特徴から長期にわたる入院生活を余儀なくされる。その生活は,制限が多く,治療とその副作用,検査や処置など多くの心身の苦痛を伴う。入院治療が終わっても,外観が変わる,体力が続かない,仲間の輪の中に入っていけないなど,苦難は続くことが多い。子どもたちは,自分自身の小さな身体と繊細な心でずっとその苦難に立ち向かっていく。

小児がんの現状と課題:総論

まず,小児がんの特徴として,成人がんの多くが上皮性腫瘍(いわゆる「癌」)であるのに対して,小児期の悪性腫瘍(小児がん)の多くは非上皮性腫瘍(=「肉腫」)である点で大きく異なる。また,遺伝的あるいは先天性の素因を有する子どもに発症することも多い。

がん患者とその子どもを結ぶ絵本たち

大切な人が“がん”であると子どもが知ったとき,あるいは“がん”で亡くなったとき,子どもは落ち込み,たくさん泣いて悲しみます。深く悲しみ,自分ではどうにもならなくて「誰か助けて」とSOSを発したときには,どこか安全で優しい場所に駆け込むことが必要です。それは,家族だったり,友達だったり,大切な人を診てくれた病院の先生や看護師さん,あるいは学校の先生かもしれません。

がんになった親と未成年の子どもを支える人々や社会資源
4.病院外のネットワーク,団体の支援(4)「死別」を体験した子どもたちと保護者を支える場をつくる

NPO法人子どもグリーフサポートステーション(以下,CGSS)は2013年2月に仙台に創設さ
れたまだ新しい団体であるが,そのルーツは,2010年12月に仙台青葉短期大学で開催された日帰り「ワンデイプログラム」(仙台グリーフケア研究会主催)である。そこは病気や自死(自殺)で親や兄弟姉妹,祖父母や友達と死別した子どもと保護者がつどい,3時間ほど,遊びやおしゃべりしながら「1人じゃないよ」「いろんな気持ちをもつ自分を大事にしよう」「一緒に生きて行こう」と支え合う場であった。

がんになった親と未成年の子どもを支える人々や社会資源
4.病院外のネットワーク,団体の支援(3)あしなが育英会がお役に立てること

あしなが育英会は,がんなどの病気・災害・自死などで保護者が亡くなる,または重度障害と
なった家庭の子どもを物心両面で支援する民間団体である。
経済的支援としては,奨学金がある。年間で高校生3,800人,大学生・専門学校・大学院生1,800人の計5,600人を支援しており,累計3 万7,000人に奨学金を貸与した。2012 年度の奨学金貸与額は23億円で,奨学金の規模としては国の制度である日本学生支援機構に次いで全国で2番目である。

がんになった親と未成年の子どもを支える人々や社会資源
4.病院外のネットワーク,団体の支援(2)特定非営利活動法人AIMS

特定非営利活動法人AIMS(エイムス)は,2011 年8 月に任意団体として設立され,2012年4 月に特定非営利活動法人(NPO法人)として認可・登録され,活動を行っている。AIMSの創立のきっかけは,創設者であり,筆者の実姉である故小林真理子の個人的な体験に基づいている。

がんになった親と未成年の子どもを支える人々や社会資源
4.病院外のネットワーク,団体の支援(1)Hope Tree

「Hope Tree」は,親ががんの子どもをサポートする専門職の団体である。成人医療の現場では,患者の子どもの存在は忘れられがちだが,子どもも含めた家族全体の支援が大切,という同じ志をもった専門職が集まり,子どもと患者さんのもつ力を信じ活動している。

がんになった親と未成年の子どもを支える人々や社会資源
3.がんになった親と子どもへの学校における支援

子育て中のがん患者は,自分の治療に向ける以上に,多くのエネルギーを子どもの日常生活の維持に注いでいる。子どもの成績が下がったのは私の病気のせいか,学校には相談したほうがいいのか,他の子と変わりなく学校行事に出させてやりたい…。自分の手術や化学療法の開始を遅らせても,子どもが学校行事や課外活動に,ほかの子どもと変わりなく参加できるようにと心を配り,治療の日程を調整している患者も多い。学齢期の子どもたちにとって,学校は日常生活そのものであり,多くの時間を過ごす学校での支援は重要である。

がんになった親と未成年の子どもを支える人々や社会資源
2.身近な家族や友人の支援

治療のスケジュールや,治療の副作用,あるいは病気の進行からくる体調不良により,これまでできていたことができなくなることがある。
Aさんは,乳がんの再発がわかり,抗がん剤治療を再開することになった。再発がわかり,治療法の説明を受けた外来の後に相談支援センターにお見えになった。ウィッグと帽子の相談に続いて,「毎週,火曜日に抗がん剤することになったのだけど,火曜日は小学校5 年生の長女が熱心に習っている大好きなバレエの日で,教室は自宅から離れた所にあるから,私が車で送迎しないといけないの。でも,治療が第一優先だから,長女が習い事に行けなくなるのは諦めてもらうしかないわね…」と話された。