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のぞいてみよう!国際学会最前線 11
ACPの国際学会に参加しました

のぞいてみよう!国際学会最前線 11
ACPの国際学会に参加しました

学会名:6th International Society of Advance Care Planning and End of Life Care(ACPEL)Conference
開催日:2017年9月6日~9日
開催地:カナダ,バンフ


木澤義之
神戸大学大学院医学研究科内科系講座先端緩和医療学分野


昨年夏の終わりに,カナダはロッキー山脈の主要都市バンフで開催されたACPELに行ってまいりました。ACPELは2010年に設立されたACPの国際学会で,初回がメルボルンで開催され,私は今回で4回目の(第1〜3回と今回)参加になりました。日本人の参加は当初2 人だけだったのですが徐々に増加し,ここのところは,知っている先生方の顔もちらほら見かけるようになってきました。

えびでんす・あれんじ・な~しんぐ(EAN)
経口抗がん剤の服薬アドヒアランス<11>

平尾千恵子(東京大学医学部附属病院看護部)


経口抗がん剤( 殺細胞性抗がん剤や分子標的薬)による治療は,慢性骨髄性白血病に対しての標準治療として行われていますが,再発や手術不能な固形がんに対しても生存期間の延長などの効果が示されており,第1選択薬として用いられます。外来化学療法加算制度の導入により化学療法を行う場所は入院から外来へ移行し,仕事と治療の両立が可能となりましたが,その一方で患者自身が服薬や症状の管理などを日常的に行う必要があります。経口抗がん剤の治療効果を高めるには,服薬アドヒアランスの維持・向上が不可欠といわれています。

落としてはいけないKey Article 22
AIと行動経済学は緩和ケアを変えるか?

森田 達也(聖隷三方原病院 緩和支持療法科)


【今月のKey Article1】
① Avati A, Jungy K, Harman S, et al: Improving palliative care with deep learning. https://arxiv.org/pdf/ 1711 . 06402 .pdf/ ② O’Connor AM. Effects of framing and level of probability on patients’ preferences for cancer chemotherapy. J Clin Epidemiol 42(2): 119-26, 1989

最初に,最近はやりの人工知能(AI)を使った緩和ケア領域での研究をみてみます。PubMedで人工知能,palliative careで検索しても臨床系論文はまだ出ていませんが,AI 業界で目を引くものがひとつありました。

緩和ケア口伝―現場で広がるコツとご法度(22)
Opioid-Induced Hyperalgesiaに気づきマネジメントするコツ

川畑 恵
(勤医協中央病院緩和ケア科)


● 痛覚過敏(opioid-induced hyperalgesia:OIH)は,オピオイド投与により引き起こされる痛覚過敏の状態で,オピオイドを増量しても痛みが増悪する現象である。
●オピオイドのレスキューを投与しても疼痛の改善がなく,オピオイドの投与量が急速に増えてきている状況では,OIHを疑う必要がある。
●OIHでは,オピオイドの減量,オピオイドスイッチやN-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体拮抗薬の投与により疼痛をコントロールする。

緩和ケア口伝―現場で広がるコツとご法度(22)
全脳照射を行うときに,メマンチンを加えたほうが認知機能が改善?

芦沼 宏典
(千葉県がんセンター呼吸器内科)


● 脳照射を行うときに,メマンチン(メマリー®)を加えたほうが認知機能の低下が抑えられる傾向がみられた第Ⅲ相比較試験の結果がある。
●米国の放射線治療医に対する調査では,メマンチンの使用は日常臨床では広まっていない。

仕事人の楽屋裏 22
菊内由貴

「人々が自分の納得のいく最期を迎えられるようにしたい。そのためには看護の力が必要だ」というのが看護師を志した理由です。そんな私は,看護もさることながら看護師という人に興味があり,臨床現場で看護師の力を高めるために貢献したいと思ったのが専門看護師を目指した理由です。専門看護師として院内外の医療者教育に携わりましたが,自分に教育の専門知識が乏しいため,次第に限界を感じ始めました。そんなとき,専門的に教育設計を学べる熊本大学大学院(教授システム学)の存在を知り迷わず飛び込みました。教育設計(Instructional Design)は,教育を効果・効率・魅力的にするための智恵であり,「これぞ私の知りたかったことだっ!」と興奮しながら学びました。さらに,この専門性を医療分野に活用することで人財育成の質を飛躍的に向上させ,患者・家族へのより質の高い医療提供に貢献できると確信し,医療分野に特化した教育設計の専門家としての起業しました。

いま伝えたいこと―先達から若い世代に(21)
最期まで支える医療 ─ がん・非がんにかかわらずできること

田村 亮
介護老人保健施設マリア・ヴィラ


私は1996年姫路聖マリア病院ホスピス病棟の立ち上げに関わらせていただき,2013年6月までホスピス医として患者や家族のケアをさせていただきました。その後医療療養病棟で非がん患者の緩和ケアや終末期医療に従事し,2018年1月から現在の介護老人保健施設で,疾病を抱えた高齢者の医療とケアに携わっております。
今日まで医療現場で経験してきたことから,私自身が大切に思っていることをお伝えできればと思います。

FAST FACT〈22〉死前喘鳴 ─痰がゴロゴロするとき

矢吹 拓
国立病院機構栃木医療センター


死前喘鳴とは,「死期が迫った患者において聞かれる,呼吸に伴う不快な音」と定義されている。呻吟や気道分泌過多とは必ずしも一致しないとされ,death rattleやrespiratory secretionともよばれる。

便秘治療のちょっとしたこと(3)
市販薬にはどのような成分が含まれているか

前田 桂吾
株式会社フロンティアファーマシー


緩和ケア領域では,大半の症例において医療用麻薬を使用すると思われるが,医療用麻薬の副作用である便秘に対して,末梢性μオピオイド受容体拮抗薬のみならずセンノシドや酸化マグネシウムのような薬剤が処方されていると思われる。
しかし,医療用医薬品は1つの製剤に1つの有効成分であることが多く,便秘のコントロールが難しい場合には,数種類の便秘薬が処方されることもある。

便秘治療のちょっとしたこと(2)
漢方薬

大前 隆仁
甲南病院 緩和ケア内科


 本稿の読者は漢方薬についてあまりご存じでない方が多いと思うので,まず簡単に東洋医学における病理観と治療方針の考え方のイメージをお伝えすることから始めたい。ご存じの方,各論だけ知りたいという方は,読み飛ばしていただきたい。
 元来の東洋医学的理論における治療の基本原則は,「足りないものがあれば補う」「余分なものがあれば瀉す(体外に出す)」というものである。「よく食べて,よく出す」とは端的に表現した言葉である。また,体内の邪(病気の根源)を体外に出す経路として,「汗」「尿」「便」(まれに「口」から吐き出すという作戦もあるがこれは非現実的)を専らとする。このなかで便から直接邪を追い出すことを目的とする方剤には大なり小なり下剤が含まれる。この理屈により多くの漢方方剤には下剤の成分が含まれていることもご理解いただけるのではないだろうか。

便秘治療のちょっとしたこと(1)
サブイレウス

里見 絵理子
国立がん研究センター中央病院 緩和医療科


がん患者においてサブイレウスは,腫瘍性,治療関連(術後癒着性,麻痺性など),薬剤性(オピオイドなど)などさまざまな要因(表1)で生じる。一時的な便秘だと思っていたのに,サブイレウス状態になることもしばしば経験する。背景によっては,容易に便秘に陥りやすく,その際の排便コントロールは,多角的な視点でマネジメントすることが求められ,臨床家にとって腕の見せ所でもある。本稿では,サブイレウス患者の便通管理の工夫について触れたいと思う。

薬物療法だけじゃない便秘のケア─王道と実践の変化(2)
排便を整える看護ケアの在宅での実践

榊原 千秋
訪問看護ステーションややのいえ


在宅療養されている患者の排便を整えることは,体調や本人のQOLに大きく影響する。そのため排便周期を整えて気持ちよく排便できるように支援することが求められる。要介護者の場合は,介護力や介護環境によって排便ケア方法の選択に個人差があるため,本人の状況だけでなく,介護者の排便ケアに対する抵抗感の有無や介護負担に配慮すること,排便ケアの環境を整えることが重要である。介護者の排便ケアへの抵抗感からあらかじめ排便日を決めて訪問看護師が座薬や浣腸,摘便で出している例も多い。排便の自立は,気持ちよく排便できることにつながるため,できる限り自立したセルフケアができるように支援する。

薬物療法だけじゃない便秘のケア─王道と実践の変化(1)
病棟で行う便秘の予防とケアの工夫

平山 さおり
KKR札幌医療センター看護部


入院している患者は,抗がん剤等の治療目的か,病状が変化している時期,あるいは看取りの時期の場合が多いであろう。このような患者は,抗がん剤やオピオイド等の薬剤を使用することも多く,薬剤そのものの副作用による便秘や,悪心・嘔吐や食欲不振によって食事摂取量が減少し,便通に変化が生じる場合がある。便秘は,適切なケアにより予防が可能な症状である。本稿では,便秘の予防の重要性と,便秘が生じたときのケアの工夫を述べたい。

PAMORAの使い方(4)
ナルデメジン投与患者への緩下剤 投与の工夫と使用症例─患者さん,下痢になっていませんか?

鹿田 康紀
済生会福岡総合病院 がん治療センター


OICは,オピオイド鎮痛薬治療を受けている患者の多くに認められ,報告によって相違はあるが,日本での入院がん患者での発症率は約40%とされ,海外での報告では慢性疼痛患者での検討であるが40〜64%と高率であるとされている。
OICは,耐性が生じにくく患者負担が大きいことから,一般的にはOIC予防目的に浸透圧性下剤や大腸刺激性下剤を用いることが多い。ナルデメジントシル酸塩錠(スインプロイク®)は,腸管でのオピオイドの消化管蠕動運動や消化管神経活動の抑制に対して強力な拮抗作用を有することによって便秘改善を来す薬剤である。しかしながら第III相がん患者対象検証試験(V9236試験)において,便秘症状の改善は著明に認めたものの,有害事象として下痢を18%に認めたと報告されている。われはれは,その原因として,それまで使用していた緩下剤を内服したままの状態でナルデメジンが投与されたことが,過量投与となったのではないかと考えた。

PAMORAの使い方(3)
オピオイド鎮痛薬開始と同時にナルメデジンを服用した事例

住谷 昌彦,阿部 博昭,東 賢志,横島 弥栄子,土田 陸平
東京大学医学部附属病院 緩和ケア診療部/麻酔科・痛みセンター


ナルデメジンは末梢性μオピオイド受容体拮抗薬(peripheral-acting mu-opioid receptor antagonist: PAMORA)に分類されるオピオイド誘発性便秘症(OIC)治療薬で,オピオイド受容体への特異的拮抗薬作用をもつオピオイド骨格に,血液─脳脊髄関門を通過しないように設計された側鎖をもつ化学構造(図1)を有することで,末梢組織中のオピオイド受容体だけを阻害する。

PAMORAの使い方(1)
ナルデメジンが有効だった症例・中止 した症例

大坂 巌
静岡県立静岡がんセンター 緩和医療科


PAMORA(末梢性μオピオイド受容体拮抗薬)の登場によって,便秘治療におけるパラダイムシフトが起きたといえる。なぜならば,従来の治療は下剤が主流であって,あくまでも便秘を治す治療ではなかった。しかし,PAMORAはあくまでもオピオイド誘発性便秘症( 以下,OIC)の治療薬であって,便秘を治療することができることと,積極的に治療を行わなければならないという意識改革をもたらした意義は大きい。

PAMORAの使い方(2)
PAMORAの効果発現の“先”を読む

田上 恵太
東北大学大学院医学系研究科 緩和医療学分野


オピオイド使用患者のオピオイド誘発性便秘症(以下,OIC)の有病率は高く,87%という報告もある。OICは,耐性が生じにくいため適切に対処しなければ症状は遷延し,患者の生活の質を低下させるだけではなく精神的な負担やオピオイド使用の障壁となる。そのためオピオイド使用患者が便秘に悩む際には,これまで使用してきた下剤に加えてPAMORA(末梢性μオピオイド受容体拮抗薬)を併用することを検討する。

PAMORA時代の便秘治療 ─オーバービュー

森田 達也
聖隷三方原病院 緩和支持治療科


オピオイドを処方するたびに「吐き気,眠気,便秘」と繰り返して20 年,つねにアセスメントするべき副作用である。眠気には,精神賦活薬以外これという新しい対処法は出現していないが,吐き気,便秘には新しい方法が生まれている。本稿では,緩和ケアにおける便秘に対して新しく上市されたPAMORA(末梢性μオピオイド受容体拮抗薬)を知るうえでの前提となる便秘全体の概論をまとめる。